LIFE LOG(カワカミ・レポート)

カワカミ・ノート

おもに都市計画やまちづくりに関わる考察などを書いていきます。

交通政策について②

【要点】
 都市計画における三つの考え方。自動車交通への批判。角本の構想の具体的な内容。

 

【本文】
 角本によれば、都市計画には3パターンの考え方があるという。
 一つめは、職場と住宅をセットで分散させるという田園都市論。二つめは、住宅のみを分散させるという田園近郊論。三つめは、分散をはからずに高層マンション等の建設によって職場と住宅の高密を可能にするという高層住宅化論。
 このうち、角本は明確に二つめの考え方をとっていた。一つめの考え方については、経済活動の都心集中はやむを得ないという立場からそれを却下している。(1)また、三つめの高層住宅化については、悪臭や騒音が解決されていることを前提とするが当時の東京にはまだ工場等が残っていたこと、そして、そもそも高層アパートのような限定された空間は子供の発育障害や大人のストレスを誘発するので住環境として適さないことを理由に却下している。
 東京の郊外に大規模な住宅地を造成するわけだが、角本はその輸送手段として自動車交通を用いることを拒んでいた。
 当時は高速道路が建設されていたので、新幹線ではなく高速道路を推奨する考えがあってもおかしくない。ところが、角本は大都市と郊外をむすぶ通勤手段として高速道路を計画してしまうと、都市内の渋滞は不可避になると予測している。それは、東京市街地内における街路の交通容量は限られているため、そこで必ずボトルネックが生まれてしまうからだという。たとえ、どれだけ交通容量の大きい高速道路をつくったところで、高速道路を出た先にある街路の方が交通量の増加に耐えられなければ、結局のところ渋滞を起こしてしまう。あるいは、たとえ大都市の中心に広大な駐車場をつくったとしても、結局はその出入り口付近の街路で捌けなければ渋滞を起こしてしまう。
 要するに、ルート上のどこか一ヵ所にでもボトルネックがあればそこで渋滞してしまうという自動車交通の性質を角本は指摘しており、したがって大都市ではたらく人の通勤手段として自動車は適さないと考えていた。

以上見てきたことから結論付けられるように、どんなに自動車が普及しても、大都市都心部向け通勤だけは乗用車の分野にはならないのである。(2)

 代わりに角本は、新幹線を交通手段とする郊外整備を構想した。その内容は、およそ次の通りになる。
 まず、東京都千代田区あたりから50kmほど離れた地域の土地を「公共用地として指定した時点の価格」(3)で購入して、そこを宅地造成する。都心から50km地点というのは、当時における人口増加地域と人口減少地域のちょうど境界となる地点だったことに由来している。造成する住宅地のキャパシティは約30万人であり、英国のニュータウンが数万人、千里ニュータウンの目標が15万人というのに比べれば、大規模なものだった。30万人というのは、中心駅から歩いて1時間ほどの距離3.3kmを半径として、その圏内でゆとりある住宅地を整備した場合、だいたいそれぐらいの人口規模になるという試算らしい。また住宅地内での移動にはバスなどの公共交通をつかうことも考慮されている。

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 さらに角本は、都心から50km地点にだけでなく70km地点や100km地点(水戸、宇都宮、前橋)にまで、以上のような郊外整備を延伸することを考えていた。新幹線の速度であれば、100km圏内でも1時間程度で移動可能となる。つまり、新幹線のその速さを活かせば、これまで東京圏として手の届かなかった地域にまで大規模なニュータウンがつくれるだろうということだ。
 このような提案には弱点もあるかもしれない。例えば、総人口30万人なら通勤者はおよそ数万人になるだろうが、その大人数を一つの駅で捌けるかどうかは疑問に思われる。そういった批判も浮かんでくるが、ひとまずここで角本の考えをまとめておくことにしたい。

住宅と職場を分離し、それぞれの設計や環境を最適のものとし、両者を最小時間の交通手段で結ぶことによって、理想的な都市圏が成立する。(4)

 角本の提唱した「通勤革命」の趣旨は以上になる。

 

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(1)以前の投稿:https://kawakami-takeru.hatenablog.com/entry/2021/05/01/215327
(2)『通勤革命』p60
(3)当時の政府は、収用する土地を決済時の価格で土地所有者から買わなければいけなかった。公共用地として指定した後に決済するので、高騰した土地を購入するから費用が嵩んでしまう。角本はそれ以前の低価格で用地を買うべきだという土地制度に関する言及もしている。
(4)『通勤革命』p183