LIFE LOG(カワカミ・レポート)

カワカミ・ノート

おもに都市計画やまちづくりに関わる考察などを書いていきます。

アメリカ人都市研究者による高密度化の都市計画に対する批判

アメリカ人都市研究者による高密度化の都市計画に対する批判】

グローバル化と脱工業化によって、世界の多くの大都市はチャンスの集まる場所から、貧富の格差の激しい場所へと変貌を遂げた。今日、パリ、ロンドン、東京、ニューヨーク、サンフランシスコといった世界の大都市は、資産家や高学歴の人にとっては魅力的なところだが、中流・労働者階級にとっては夢も希望もない場所である。

 アメリカの都市研究者ジョエル・コトキン氏は、現代の都市計画とくに大都市で推し進められてきた高密度化の政策について手厳しく批判している。

多くの都市では「高密度化(densification)」の推進により、手頃な価格の中古アパートや戸建て住宅に代わって、富裕層の単身者や子どものいないカップル向けに高級マンションが建設されることが多い。(中略)これは単に市場原理の結果と考えれば済む話ではなく、都市の政界・経済界のリーダーたちが推し進めてきた計画の結果でもある。彼らはエリート企業やグローバルな富裕層、高学歴の人材を誘致するために、しばしば貧困層中流階級を都市の外に追いやるような政策を採用している。

 アメリカの主要都市について、全世帯を所得階級別にみたときに最上位所得層と最下位所得層との格差が最大になるのは、サンフランシスコ、ニューヨーク、サンノゼ、ロサンゼルス、ボストンといった名だたる大都市だという。仮に、ニューヨーク市を一つの国家とみなすと、不平等レベルは134ヵ国中第15位となり、チリとホンジュラスのあいだに位置するものといわれる。
 こうなってしまったのは、近年のアメリカの大都市が高層オフィス・高層マンションの建設によって富裕層と高学歴者をその中心部に引き寄せてきた一方で、土着の労働者と中流階級を住宅価格の高騰等によって遠ざけて、それと入れ替わるように移民とその子孫を貧民街に吸収してきたからだという。「今日、大都市は富裕層と高学歴者を引き寄せ、貧困層の住民は周辺部に追いやられ、その中間がほとんどがら空きの状態が続いている。」
 また、大都市の魅力に引き寄せられて集められる若者というのは、いつか住宅を購入し、子どもを持ちたいという望みを叶えるため、物価の高い都市に長く居続けることはなく、自分の人生の「都市生活時代」を満喫したのちに他の場所へ引っ越していく短期滞在者となってしまう。このことから大都市では子育て世帯も数を減らしてきた。2011年から2019年までのあいだにマンハッタン地区で毎年生まれる子どもの数は15%近く減少し、ニューヨーク市全体では9%減少、今後30年間で当該地域の乳幼児人口は半減する可能性が指摘されている。
 このように、高密度化の政策を実施した大都市では、定住者となる中流階級、子どもをもつ家族が都市の外へ出て行ってしまうことで、ジェイン・ジェイコブズが追求したような人間味のある街路近隣からは程遠いものになっているという。

新しい都市景観は、高所得国の主要都市でよく目にする、同じような街並み、同じような店舗、同じような人びとが集まる、驚くほど似たり寄ったりのものとなっている。(中略)
 ニューヨークのようなエリート都市は、中所得層(特に子持ちの住民)が大量に流出していることを考えると、もはやジェイン・ジェイコブズが愛情を込めて描いた歓迎すべき都市の隠れ家(urban havens)とは似ても似つかぬ場所になっている。中流階級の都市住民が都心部に自分たちの居場所を取り戻せるという彼女の希望は非現実的なものに思える。

 国際的な大都市で高密度化の政策を進めてきた立役者としては、政治家と不動産業者をあげることができる。しかし、コトキン氏によれば、それだけでなく都市計画家、学者、評論家の責任も無視できないという。中流階級や子育て世帯の多くは、戸建て住宅をもち、自家用車で移動するという郊外のライフスタイルに支えられてきた。現代の都市計画家たちは、そうした郊外居住者のライフスタイルにあえて低い評価を与えることで、大都市の高密度化にお墨付きを与え、階級格差などの弊害を棚に上げてきた。

オーストラリアの都市学者で建築評論家のエリザベス・ファレリーは「郊外は退屈の象徴です。むろん、退屈で、平凡で、ありきたりな生活がお好きな方もいらっしゃるのでしょうが」と述べ、さらに「たとえ彼らの住む郊外が世界を破壊することになるとしても、彼らと一緒に喜んであげたい」と皮肉っている。(中略)
 建築史家のロバート・ブルーグマンが述べているように、都市計画家は昔から中流階級の郊外生活への憧れを無視し、軽んじてきた。加えて、彼らの動機は大概「階級が基準」となっており、ヒエラルヒーが明確に存在し、社会的上昇の機会や上流階級以外の人びとの境遇を改善する機会が制限されていた前近代のパターンを復活させようとしている。
 郊外居住者のライフスタイルを攻撃することは、事実上、中流階級を社会的に崩壊させることを意味する。中所得者世帯が都心から締め出されているにもかかわらず、都市計画家たちは、大多数の人が実際に望ましいと考えている代替案を封じようとしているのである。

 日本ではとくに港区の再開発で格差社会を映し出すような都市計画が行われている。先月、麻布台ヒルズのタワー展望台に行ってみたが、そこは一般人のエリアとヒルズのメンバーのエリアに分かれていて、お互いが接触しないよう壁で仕切られていた。
     こうした都市のプロジェクトがジェイコブズの理想からほど遠いことは誰にでも分かる。

 

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【参考】
・ジョエル・コトキン『新しい封建制がやってくる グローバル中流階級への警告』