LIFE LOG(カワカミ・レポート)

カワカミ・ノート

おもに都市計画やまちづくりに関わる考察などを書いていきます。

箱の町

【箱の町】
 ディズニーランドへ泊りがけで遊びに行った時のこと。
    ホテル代を安くしたいので、ディズニーリゾートのホテルではなく、舞浜駅から一つ外れた新浦安駅の近くのホテルに泊まった。もともとマンションだった物件を改装したホテルのようで安く泊まれた。
    ホテルからチェックアウトして首都高にのって帰ろうとする前に、「夢の国」の隣町とはどんなものだろうかと思い、少し寄り道をすることにした。JR線より海岸側の浦安※をドライブしたら、なんだか異様な場所だった。
 というのも、一つひとつの建物が通常より大きい。住宅は高層マンションが建ち並んでおり、商業施設も自営業店などは見当たらず、イオンなどの大型ショッピングモールか大型スーパーに集約されている。緑地も公園も、子供達の遊び場というには非常に広い。道路は全て計画的につくられていて歩道も開放的だから、いわゆる狭い路地などは存在しない。
    埋立地の上につくった人工的な町だから、このように整然とした土地利用ができるということなのだろう。つまりこれは新浦安に限らない話かもしれない。
 要するに、箱型の建築物が大半を占めている。北関東でこういった場所はまず見つからないだろう。何となく外国の占領地にも見えてくるし、戸建て住宅もサイズが大きくて似通ったデザインだから、何らかの容器の様にも見える。ここは箱の町だ。
    もちろんリゾートホテルはあるけれど、ここには保育園から大学までがある。消防署などの公共施設も揃っている。だから新浦安で生まれ育ち、もし東京ディズニーリゾートにでも就職しようものなら、一生涯をこの地で暮らすという人生もあり得るだろう。豊かな人生かもしれないが、その人の活動のほとんどは箱の中で行われているのだ。そう思うと、「夢の国」も何か不気味な場所のような気がしてくる。

※ 高洲地区、明海地区、日の出地区

 

【フェデラル・ブルドーザー②】
 再開発事業というのは、民間企業主導のものだと言われるが、それは事実なのか。
 マーティン・アンダーソンは、都市の再開発事業というのは、本来ならとても採算の取りにくい事業であるはずだと述べた。
 再開発では、まず既存の建物を取り壊した上で、新しい物件を建てなければならない。既存の建物を壊してしまえば、解体費が嵩むだけでなく、それが将来的に生み出していくはずの利益も失うことになる。高い利益率を求めるなら、既存の物件を維持しながら、再開発に使う資金を何か別の投資に充てた方がはるかに効率的であるはずだ。
 こうした推理をしてみれば、アンダーソンは次のことが分かるという。
 つまり、利益率を考えれば、民間企業が続々と再開発事業に乗り出すということなどあり得ない。もし仮に再開発事業が選ばれるなら、そこには市場メカニズムとは異なる諸力がはたらいているはずだという。
    そして、アンダーソンは調査の結果、民間資金と思われている融資の多くは、実際には政府が保証しており、一連の再開発はまったく市場由来ではないと主張した。

 都市再開発地区での民間建設工事の約35%は、連邦政府の一機関である全国抵当融資協会を通じて資金ぐりがはかられている。(中略)このために、使われた資金の大部分は政府からくる資金であって、民間資金ではないのだ。(1)

    現在日本で行われている再開発も、同様に民間主導と言われているが、これらもまた日本政府のつよい影響下にあり、市場メカニズムの産物とはいえない。それにはいくつかの理由がある。
    第一に、再開発によって新しく建設されたマンションもオフィスも、容積率の緩和によって超高層化を実現しているわけだが、それらは政治的判断に基づき設定された特定の地区(都市再生特別地区等)に限定されていることだ。
 もし、容積率緩和などの優遇措置が、都心の特定の地区ではなく、国土全域に渡って適用されたとしたら、再開発ということにはならないだろう。都心の既存物件を維持したまま、地価の安い場所を開発する方が経済合理的となるはずだ。
 第二に、再開発事業の資金繰りが成り立っているのは、日銀による金融緩和政策の結果であることだ。
 再開発の事業化には、数百億円といった多額の資金が必要となるが、事業者がそれらを容易に調達することができるのは、日銀の量的緩和政策により、低金利が継続しているからだろう。それだけではなく、低金利は住宅ローンにも好影響を及ぼすことから、高層マンションに対する実需の維持にも一役買っている。低金利でなくなれば、再開発事業は需給ともに衰微してしまう。
 さらに、再開発によって完成した物件の多くは将来的に(なかには完成と同時に)、J-REITへ売却されているが、そのJ-REIT市場もまた日銀の質的緩和政策によって市況が支えられている。(2)これは言い方を換えれば、再開発物件の運用について、最終的には日銀が引受け手となっていることを意味する。
 こうしてみれば、再開発事業に対する最大の資金提供者は、民間銀行でも海外投資家でもなく、日銀なのではないか。したがって日銀が金融緩和政策をやめてしまえば、東京の再開発ブームも終わりを迎えることだろう。政府の金融政策の方針次第で、市況が変わってしまうというのに、これを民間主導と呼ぶわけにはいかない。

日銀によって不動産証券などが政策的に購入されているということを、どう考えるべきなのか。いずれにせよ、オリンピックが終わってからも東京都心の再開発は止まらないであろう。というよりも、資本の行き着く先がほかにみいだせないかぎり、止めることができないに違いない。(3)

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 (1)『都市再開発政策 その批判的分析』
 (2) https://www.asahi.com/articles/ASP3976CFP2DULFA00X.html
 (3)『首都改造 東京の再開発と都市政治』