LIFE LOG(カワカミ・レポート)

カワカミ・ノート

おもに都市計画やまちづくりに関わる考察などを書いていきます。

田村明③

 群馬県は、令和元年の台風19号によって多大な被害を受けた地域の一つに入る。

 およそ2年前の台風であり、その頃の自分は大学生だった。テレビをつけると「自分の命を守る行動をしてください」みたいな話ばかりしていて、危ないと思ったので大学へ避難しに行こうとしたが、家の支度が終わった段階で、急にめんどくさくなって、普通に寝たのを覚えている。

 仕事が始まった頃は、巷はコロナで騒いでいたが、仕事の方は台風19号による災害復旧工事で一色だった。自分もいくつか工事を発注して復旧に携わったが、その中で分かったことがある。

 地方では、工事にかかる人がなかなか集まらない。集まったとしても皆高齢だ。「職人さんが手配できない」と言われて、工事がなかなか始まらなかったり、始まっても進捗がわるい場合がある。そもそも入札が落ちないというケースもある。結局、2年経っても復旧できない河川とか、通行止めになったままの道路などが出てきてしまう。

 とりわけ過疎地域のような村では、隣接都市の建設業者が工事を請け負っており、村の人材で作業員を賄えなくなっている。もっと言うと、その都市の建設業者でさえ、高齢の人たちなのだ。地元の工業高校などから人材を得ている企業はまだ良い方だが、そういう縁のない企業となると、一方的に高齢化しており、廃業状態になりつつあるケースもある。

 土木事業は、自治体が地域の会社を選んで入札をかけて、工事を請け負ってもらう。基本的には地元の会社が地元の工事を遂行する制度(指名競争入札制度)になっている。この制度によって、全国各地には建設業者が満遍なく分布してきたという。(宮崎 2021)

 しかし、ここに来て地方建設業は深刻な高齢化と人材不足に陥りつつある。まだ彼らが作業員あるいは職人として働けているから良いが、二十年後、三十年後、再び大きな災害が起きたとき、いったい誰がその復旧に携わるのか。

    こういう難しい問題については、いろいろ考えたくなってくる。

 

【グローバリゼーションの終焉③:社会主義への変異】
―以下の内容は、某評論家の著作等を踏襲してまとめたものです―

 グローバル経済というのはそもそも過剰な資本主義経済です。だから、資本主義が後退するとグローバル化も後退する。
 ジョセフ・A・シュンペーターという有名な経済学者がいたらしく、その人が資本主義の終わり方を指摘していたといいます。私は、その人の本は読んでいないので、あくまで某評論家の解釈を紹介します。
 資本主義はもともと、金融によって長期的な投資を行い、技術革新(イノベーション)を実現し、社会の生産力を著しく高めることを目指す経済体制です。そのような技術革新の背後には、中小・中堅の自営業者たちによる旺盛な企業家精神がなければいけません。しかし、技術革新を実現した企業は、大企業組織へと成長することで、周囲の中小企業を駆逐してしまう。それによって、社会全体の企業家精神や投資意欲も沈滞してしまい、資本主義は後退する。資本主義は、それ自体が自己破壊的なメカニズムをもっているというのがシュンペーターの洞察でした。
 大企業の台頭によって、それを牽制する国家が経済に介入するようになる。シュンペーターは、時が経つにつれ資本主義が社会主義へと移行することを主張しました。政府は、格差是正完全雇用を目指し、公共投資を実施したり累進課税を導入したりして、経済への管理を強めていきます。そのような社会は、公的機関が経済を管理しているという意味では、事実上の社会主義であろうというわけです。

そのようなシステムは、なお資本主義と呼ばれるであろうことは疑いない。しかし、それは、人工装置によって生きながらえ、過去の成功を担保してきた機能のすべてが麻痺した、酸素吸入器付きの資本主義なのである。(シュンペーター)

 シュンペーターが上のような説を考えるようになったのは、アメリカがニューディール政策を打ち出してからだといいます。しかし、アメリカ政府はその後、第二次世界大戦への参加によって、さらなる市場経済への介入を強めていきました。
 ここで、戦争によって増大した財政支出は、戦争が終わればなくなるわけではなく、戦後もその水準は下がらなかったと言います。戦争需要がなくなっても、代わりに福祉政策などの民政支出が増大することで、国家の予算規模は戦時から維持されたままになる、これを「置換効果」というそうです。
 実際、第一次世界大戦前の<1913年>、対GDP比の中央政府支出は、イギリスが7.0%、ドイツが6.0%、アメリカは1.9%でした。それが、<1925年>にはイギリスが15.4%、ドイツは10.2%、アメリカは3.2%に増えたといいます。さらに、第二次世界大戦後の<1950年>にはイギリスが26.9%、ドイツは17.3%、アメリカは13.4%に増えたといいます。
 地政学的なショックが起きるたびに、資本主義国は社会主義化しているわけです。
 現代のグローバル化は、冷戦終結によって本格的に始まったといいます。地政学的な安定が、国際的な経済活動を支えるというのは「覇権安定理論」で述べた通りです。しかし、グローバル化という過剰な資本主義は、グローバル企業という世界的な大企業をつくり出し、また世界的な格差の拡大を生み出しました。
 そして、ここにきてアメリカ含む世界各国が直面しているのは、新型コロナウイルスパンデミックと、中国の台頭という地政学的リスクです。バイデン政権は、これらの問題に対処するため、リーマンショック時の経済政策を上回る「米国救済計画」や「米国雇用計画」という大型の財政支出を講じようとしているといいます。
 アメリカに限らず、各国は新型コロナウイルス対策のために大規模な政府支出をかけており、その対GDP比の規模は、<2021年>7月時点で、イギリスが16.2%、ドイツが13.6%、フランスが9.6%、日本が16.5%、アメリカが25.4%に及んでいるといいます。一方で、平時<2018年>における対GDP比の一般政府歳出は、イギリスが40.2%、ドイツが44.5%、フランスが56.0%、日本とアメリカが37.9%となっており、単純計算でこれらに新型コロナ対策費を上積みすると、どの国もGDPの6割前後に達することになります。そして、もし「置換効果」が働くとすれば、パンデミック終息後も政府支出はこの水準から下がらないということになります。
 コロナ禍は、資本主義国の社会主義化に拍車をかけたわけです。さらに言うと、中国などの地政学的ショックがこの変異をさらに加速化させるかもしれない。
 バイデン政権において注目されているのは、その人事において、グローバル化路線を継続したオバマ政権時のスタッフを再び起用したにも関わらず、グローバル化から方向転換して大型の財政政策を唱えるようになったことだといいます。アメリカ自身がもはやグローバル化から背を向けようとしているわけです。
 その中でも、44歳という異例の若さで大統領補佐官に登用されたというジェイク・サリバンは、グローバリゼーション及び自由貿易を批判して、次のように述べたといいます。

「政策担当者は、あらゆる貿易協定は良い貿易協定だとか、答えは常に貿易の拡大だといった従来の認識を超えなければならない。詳細が問題である。安全保障コミュニティは、TPPについて、その実際の中身を吟味もせずに、何の疑問も抱かずに支持していた。米国の貿易政策は、何年にもわたる間違いが多すぎて、プロ貿易協定の議論をもはや額面通りには受け入れられない。」

 

【田村明③:宅地開発要綱】

    横浜市企画調整局が設置されてから最初の年に取り組んだ大きな仕事は、高速道路の地下化と、もう一つは「宅地開発要綱」の作成だったとされている。
 田村が横浜市に入庁した1968年当時は、高度経済成長期と重なり、宅地が乱開発される時代の真っ只中だった。
 住宅政策に詳しい住田昌二氏によれば、日本は1970年代半ばまで、住宅の質より量を重視する戸数主義の政策をとっていたという。戦後の日本は、空襲による焼失や疎開による取壊しによって、420万戸(当時の全国都市住宅の約半数)という未曽有の住宅不足を抱えていたが、その上に、朝鮮戦争の勃発と高度経済成長によって、首都圏へ大量の人口が流れ込み、さらなる量的住宅難に陥ったのである。
 政府は、公共住宅の建設と民間住宅の指導の両面で、住宅戸数を増やすことに徹底したが、問題なのは住宅の質が等閑視されることで、首都圏に低質粗悪な民間住宅が量産されてしまったことだった。その典型的な例は、山手線の外側に形成された木賃アパートベルトであろう。

極端ないい方をすれば、いかに少ない公共投資で、いかに効率的に戸数消化をはかるかが政策目標となり、「早く」「多く」供給することが政策基準となった。(中略)
 建築基準法違反の民間低質住宅が大量に簇生した事態も、戸数稼ぎのためには、結局は黙認しなければ、政策のつじつまが合わなかった。この政策がもたらした主要矛盾は、住宅の質の低下、社会資本の弱体化、それにもとづく住環境の悪化であった。戸数主義の住宅政策が、地域問題としての住宅問題を激化させた。(住田『住宅供給計画論』)

 そういう中で田村は、横浜市の乱開発の問題に立ち会った。
 もっとも、当時は宅地造成等規制法によって、土砂崩れを引き起こしてしまうような崖地に住宅が開発されるリスクは回避されていた。また、宅地造成事業規制法によって、開発事業者や開発計画の適性をみる体制はとられていた。
 しかし、それ以外の問題、住宅に伴って建設されるべき社会基盤の整備不足については、依然として解消されていなかった。具体的には、病院や銀行、郵便局、公園、とりわけ学校といった公共施設の用地確保、そして、上下水道やごみ処理、バス交通などの公共サービスやライフラインの未整備という問題があった。要するに、民間の開発事業では住宅だけがひたすら造成されるだけで、その周辺の公共投資が追いつかなくなっていたわけだ。
 こうした中、兵庫県川西市では「宅地開発指導要綱」がつくり出され、開発業者に学校用地の無償提供を求めるといった対策がとられていた。その要綱は、法律でも条例でもないが、実効性をもっていたことから、横浜市もこれに倣って「宅地開発要綱」の検討をすすめていたという。
 しかし、横浜市政令指定都市であり、普通の市町村とは違って、政府とダイレクトな関係にある。そのため、法律に抵触しうるような要綱には批判的な意見が多く、作成の議論は難航したという。ここで、都道府県並みの権限を持っているはずの横浜市の方が法律に縛られやすく、一方で、川西市政令指定都市でもないのに、法に基づかない自由な行政を得ていたという点は興味深い。
 なお、要綱の内容を議会に通して、議決を経て条例にすることもできなかったらしい。当時の議員は、開発業者からの圧力を受けており、開発業者の不利益となるような要綱の制定には賛成しなかった。また、要綱は地主の不利益にもつながるため、地主層を代弁する議員にも賛成されなかったのだろう。
 要綱には、道路や河川、駅前広場などの建設費負担についても盛り込まれているが、特に重要な部分は、学校用地の取得に関するものだったという。

学校は遅らせるわけにはいかないが、用地を確保できない。そこでやむなく運動場にプレハブの校舎を建てて対応する状況だった。運動場一杯にプレハブ校舎が建ち並び、運動会はもとより、体育の時間には、近くの公園まで出かける学校もある始末だ。この小中学校に当てる土地を、坪一万円で市が譲り受けたいというのが、要綱の中心点だ。

 要綱作成の議論をすすめていた間、横浜市は、田園都市線を開発していた東急と公共用地の提供に関する交渉を行っていた。田村はじめ企画調整局は、その交渉結果をもとにして宅地開発要綱を制定したという。最終的には、市長と助役を含む首脳部会議で、押し切って決めてしまったらしい。制定にあたっては、要綱運用の窓口になる部局と内部でもめたり、制定してからは建設省からクレームが来たりしていた。
 要綱行政は、当初はさまざまな抵抗があったそうだが、横浜市等が先行事例として優れていたのか、その後、宅地開発に関する要綱をもつ市町村は全国に広がっていったという。
 田村が宅地開発をコントロールしようとした事例は、要綱以外にも、線引きや用途別容積制などがある。線引きの原案では、既成市街地と開発中の土地を除く、全ての土地(市域の55%)を市街地調整区域に入れようとしていた。結果的には25%に縮められたそうだが、多めに設定した市街化調整区域は、その後の公共用地の確保に役立ったという。また、用途別容積制を導入して、商業地域内の高容積化とマンションの増加を抑制していた。これによって日照問題に対応し、かつ市街地内で学校用地の取得が困難になる事態を防いでいたという。

始めに述べたとおり、土地利用問題は都市づくりの基本でありながら、もっとも困難の多い仕事である。私も多くのむずかしい仕事をしてきたが、精神的にもっとも多くの負担になったのは、この問題である。コントロールを強化すれば多くの関係者の恨みを買うだろう。だから行政としてはコントロールを緩めるのはもっとも容易なことで、直接利害関係をもつ多くの人びとに歓迎されるかもしれない。しかし、それでは、かつて土地利用や開発を押さえる手段がなにもなかった時代の混乱に帰ることで、全市民の利益は守れない。せっかくその混乱と失敗の中でようやく生まれてきた土地利用や開発コントロールのさまざまな手法を、全市民的な立場で進める必要があろう。

 ところで、最近の住宅政策だと、首都圏ではタワーマンションの建設がめざましい。何回かに及ぶ建築基準法の改正が積み重なって、2000年頃からタワマンの竣工が飛躍的に増大した。
 タワーマンションは、それ自体が巨大な住居収容施設であり、戸数だけが異常に増えるため、入居人口に相当するだけの公共施設をもたない。タワマンを購入する層は、新しく家族になったばかりの若い夫婦が多いというので、当然ながら小学校などの子供向け公共施設の整備が追いつかないことが想像される。
 タワマン建設に奔走した武蔵小杉の地区では、駅の混雑も有名のようだが、少し調べてみると、待機児童の増加やプレハブ校舎建設などが問題として取り沙汰されているらしい。また、このような問題は武蔵小杉に限らないという。現代の日本人は、田村から何も学んでいない。

 

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参考文献:『都市ヨコハマをつくる』『都市計画プランナー田村明の闘い』『住宅供給計画論』 
https://hiyosi.net/2016/01/26/elementary_school/
https://www.businessinsider.jp/amp/post-33255
https://musashikosugi.blog.shinobi.jp/Entry/625/