LIFE LOG(カワカミ・レポート)

カワカミ・ノート

おもに都市計画やまちづくりに関わる考察などを書いていきます。

草津町の再開発②

【どうでもいい情報と重要な情報①】
    仕事ではメモが欠かせないと言う。メモを取るのは、それが必要な情報だからであろうが、そもそも、なぜメモを取るのか。もちろんメモをしなければ必ず忘れてしまうからだけれども、扱う情報全てを記憶していれば、メモは必要なくなる。そう言われてみればそうだが、そんな記憶力は誰にもないので、社会人のほぼ全員はメモ帳や付箋を多用している。
    人間の頭は全ての情報を記憶するようにはできていない。それは、大事な情報だけを記憶して、どうでもいい情報は忘れるようにできているとも言える。どうでもいいこと、くだらないこと、自分にとって要らない情報、そういったことは忘れ去り、大事な情報だけを自分に残す。ニーチェは「健忘」という言葉を使っているが、人間はモノを忘れる方が正常だということだ。
    その一方で、仕事をする人は、何でも忘れないようにメモを取る。仕事中で何度も見聞きするキーワードならさすがに憶えてしまうが、たいていの情報はすぐに忘れてしまうものだ。メモを取らないと、数日前の記憶すらまともに整理できない。
    何が言いたいかと言うと、仕事で使う情報のほぼ全ては、本人にとって大事なことではないのである。本当に大事な情報だったら、メモを取る必要はない。言い換えれば、社会人は自分にとってどうでもいい情報を延々と捌き続けている存在だと見ることもできる。

 

草津町の再開発②】
 草津町は再開発が進められているが、毎年10億円規模の投資をしているのだから、普通に考えれば町の財政は悪化しているはずである。
 ところが、実際には悪化しておらず、むしろ良くなっている。草津町の負債である起債借入額は56億円(H22年度)から33億円(H28年度)に減少し、また同町の資産である財政調整基金は24億円(H22年度)から47億円(H28年度)に増えているという。(1)この変化は、黒岩町長が再開発事業を実施している期間において起きている。この間に、観光客数が劇的に増加したわけではないし、草津町が何かを接収したわけでもない。ここには、どういうからくりがあるか。
 結論からいえば、「ふるさと納税」の効果である。これは推測等ではなく、草津町が自らの財務分析として明らかにしていることだ。(2)草津町は、群馬県内でふるさと納税の恩恵を最も受けている自治体の一つである。同町への寄付額は、H27年度から急上昇し、県内市町村において最大となった。H27年度からR元年度の5ヵ年にかけては、毎年10億円以上の寄付金を得ている計算になる。(3)
 なお、寄付金の使途の中には「温泉、観光及び産業振興に関する事業」の他に、「町長に一任」「町長が必要と認める事業」という項目があり、再開発関連が相当の割合を占めていることがわかる。この豊富な寄付金によって、草津町は再開発と健全財政を両立させているわけだ。ここまでは良い。しかし、他の温泉地はどうか。
 群馬県には四大温泉として、草津温泉の他に、伊香保温泉、四万温泉水上温泉がある。それぞれの温泉地を有する自治体(渋川市中之条町みなかみ町)は、いずれも過疎地域を抱えており、多額の寄付金を必要としているはずだが、いずれも草津町よりふるさと納税の総額が小さい。それに、3市町とも「平成の大合併」によって自治体が広域化しており、温泉地以外の地域振興も勘案しなければならない。
 それに比べて、草津町は「平成の大合併」に巻き込まれることなく、人口1万人未満の小規模な自治体として生き残り続けている。そのため、町財政は温泉街の振興に主眼を置くことができるので、ふるさと納税のように市町村単位で資金を調達できる制度は、他の温泉地よりも有利にはたらいている。
    要するに、「ふるさと納税」は地域格差是正の政策というが、実際には田舎どうしの格差を拡大させてしまっているわけだ。豊富な返礼品を揃えた地域、名の知れた地域ばかりに資金が集まっていて、それ以外の本当に救済すべき地域は、弱い立場のままとなっている。実際、草津以外の温泉地で、自治体が主体となって町をつくり変えるような公共事業を昨今見ることはできない。仮に何かするのであれば、みなかみ町のように外部の民間企業に多くを委ねる他はないだろう。(4)民間企業は、それなりに来訪者の増加を保証するかもしれないが、町の繁栄まで保証してくれるとは限らない。都合がわるくなれば、撤退してしまう可能性だってある。
    結局のところ、草津町の再開発が仮に成功しているとすれば、それは町政の変化も大きな要因だろうが、国政の影響によるところも大きい。「ふるさと納税」がなくても草津の再開発は行われたかもしれないが、その恩恵があるかないかで、一連のプロジェクトの規模は違っていたはずだろうし、財政などの状況も全く違っていたはずだろう。もっとも、実際に成功したかどうかというのは、長い目でみて評価しなければならないことだ。

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(1)https://www.town.kusatsu.gunma.jp/www/contents/1519900896434/index.html
(2)https://www.town.kusatsu.gunma.jp/www/genre/1484895425731/index.html
(3)https://www.town.kusatsu.gunma.jp/www/furusato/usage/list01/index.html

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/topics/20200804.html
(4)https://www.hoshinoresorts.com/information/release/2022/10/223300.html
 https://corp.rakuten.co.jp/news/update/2021/1018_01.html