LIFE LOG(カワカミ・レポート)

カワカミ・ノート

おもに都市計画やまちづくりに関わる考察などを書いていきます。

コンパクトシティについて①

【要点】
 コンパクトシティとは。『ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのか』(村上敦, 2017)。フライブルク市の住宅政策、流通政策、交通政策。都市計画の本質は、自治体による規制と計画にあること。

 

【本文】
 「コンパクトシティ」という言葉には、その是非はともかく、以前から関心があった。昨今の都市計画や地域政策において、よく流行している言葉である。その概要は、およそ次のようなものと考えられる。
 現代の日本には、モータリゼーションの進行によって、自動車を利用しなければ満足した生活を送ることができない地域が増えてきた。しかしながら、高齢化社会の昨今では、公共交通を有効なアクセスの手段とする後期高齢者層も増加してきており、このままでは多くの人々における生活の便が損なわれてしまう。したがって、人口や施設を公共交通の拠点に集約させて、コンパクトなまちづくりを目指す必要があるという。
 これは、主に交通問題から映し出したコンパクトシティの推進理由といって良いように思う。他にも、コンパクトシティをめぐる議論には、環境問題や財政問題といった切り口から提唱されるパターンがある。機会があれば追々取り上げたい。
 書店の中で目に付いたもので、村上敦氏の『ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのか―近距離移動が地方都市を活性化する』という本があったので、この議論を紹介したい。
 著者である村上氏は、もともと日本で土木工学を専攻した後、ドイツに在住してはたらいた経験を活かして、現在さまざまな環境政策都市政策を提言している。このような背景から察するに、彼の著作からは、コンパクトシティの発祥地と目される欧州の実情にのっとった本場の見聞が期待できるだろう。
 実際、読んでみると、フライブルクの都市計画について、数字や地図を用いた丁寧な紹介がなされている。村上氏によれば、フライブルクの都市計画は、およそ三つの施策に支えられているという。
 一つめは、住宅政策である。フライブルク市は、住宅の需給調整を行っている。地域の住宅市場を自治体がコントロールしているのだ。いわゆるFプランとBプランでは、土地利用や建築様式などが取り決められているが、それだけでなく、住宅の供給量についても盛り込まれている。これによって、日本にみられるような、住宅の供給過剰による空き家増加やスプロール的な郊外の乱開発を防いでいるという。
 さらに、日本の地方都市では戸建て住宅が多く建設されているのにたいして、ドイツの地方都市では集合住宅が多く建設されている。日本の戸建て率は56%だが、ドイツの戸建て率は30%であり、とりわけフライブルク市は15%以下と極めて低い。集合住宅の割合を増やすことで居住地域を集約させ、公共交通主導のまちづくりを促しているという。
 二つめは、流通政策である。とても興味深いことに、フライブルク市では店舗の品ぞろえに基づいて、商店の立地規制を行っている。具体的には、日用品および準日用品を販売する商店を中心市街地もしくは住宅地内に立地させ、非日用品を販売する商店を郊外地域に立地させるように規制をかけている。 
 こうすることで、郊外に広い駐車場を設けたスーパーマーケットが、中心市街地の商店街を駆逐してしまうような傾向を抑制し、駅周辺のにぎわいを維持しているらしい。フライブルクでは、食料や衣類のような日常的に需要のある品物は、中心市街地でなければ買うことが出来ない。逆に、キャンプ用品や自動車関連用品のような、ふだんは買わない品物をもっぱら取り扱っている店でなければ、郊外で出店することができないのである。
 最後に三つめは、交通政策である。フライブルクでは、住宅地内や中心市街地における自動車交通につよい制限をかけている。例えば、時速30km以内で走行しなければならない区間や、自動車の通行よりも路上で遊ぶ子供たちを優先しなければならない区間を設けることで、徹底して交通静穏化を実施しているという。
 さらに、LRTといった新しいタイプの路面電車を建設したり、自転車専用レーンや駐輪場などの自転車のインフラ整備をすすめたりしている。自動車以外の交通手段をより多く利用してもらうため、公共交通などの部門に十分な予算をつぎ込んでいるのである。
 以上の村上氏によるフライブルク市の施策紹介からわかるように、コンパクトシティを本格的に実現するにあたっては、住宅・流通・交通のおよそ三つのアプローチから総合的に対処していなければならないことがわかる。
 また、都市計画の本質的なところも、自治体のストイックな規制と計画にあることもわかる。村上氏によれば、住宅市場、小売市場、自動車交通のいずれにしても比較的に厳しい規制がかけられており、フライブルク市の管理下にある。それに、集合住宅や公共交通の開発というのも、フライブルク市の計画によっているものである。
 結局のところ、優れた都市計画やまちづくりを実現するには、十分な規制と計画を設けるだけの、つよい政治力と主体性が自治体に備わっていなければいけないのかもしれない。